「稽古場の苦労」 オペラの制作現場からーその5

日本のオペラ団体は専用の劇場を持っていません。これって、世界的に見れば結構不思議な存在のようです。しかし我が国のオペラ発展の歴史は、自前の劇場を持つ環境とはほど遠いものでした。上演可能なホールも、殆どはオペラ用ではなく多目的ホール、稽古も貸しスタジオで行うのが当たり前のことだったのです。
本舞台に合わせてデザインされた階段のある立体的な舞台装置の場合など、借りた稽古場の天井が低いと持ち込めませんから、階段の位置を稽古場の床にテープで貼り付けて、微妙な時間差をつけて上り下りする真似をしながら歌うとか、苦労は尽きませんでした。
ところが最近の二期会オペラの演出では、演技や舞台上での動きを重視するようになって深刻な問題が出てきました。本舞台上での通し稽古が借館期間の制約内では十分にできないという問題もあって、本番通りの動きができない稽古場では公演の完成度に影を落とす恐れが出てきたのです。公演のたびに、制作担当者は公演会場並みの間口や奥行きを持つスペースの稽古場はないかと探すのが悩みの種でした。
そんな時、廃校になった新宿区立淀橋第三小学校が芸能花伝舎として舞台芸術関係団体に開放されることになり、その体育館を稽古場として特定期間使わせていただけるようになったのです。まさに理想的な稽古場空間で、コンヴィチュニー演出の『皇帝ティトの慈悲』、『ダフネ』、故実相寺昭雄演出の『魔笛』と、舞台装置を持ち込んだ稽古が実現し、完成度の高い公演に結びついていったのです。
Tito.jpg
『ティト』では何と回転舞台まで仮設し、人力で回しながら稽古を敢行しましたが、同じように回転舞台を使う『魔笛』では舞台装置が大きすぎたため、歌手達が装置の表から裏へ移動するのに合わせて、制作スタッフの方が装置の周囲を回りながら稽古を進める事態となったのですが。(常務理事 中山欽吾)

Page Top