ダブルキャストの功罪  オペラの制作現場からーその7

 ダブルキャストというのは一つの公演で2組のキャストを交互に出演させる方式をいいます。この全役2組というのは海外ではあまり聞いたこともなく、多分日本だけのことかもしれません。このことから日本のオペラ事情が透けて見えるようになります。
 自前の会場を持たないオペラ団体は、会場を借りるという制約があって連日上演せざるを得ませんが、マイクを使わないオペラ歌手は数時間にわたって会場全体に響く声量で歌い続けなければならず、連日の出演は声帯に過大な負荷を与えてしまいます。この矛盾を解消するために、二組を交互に歌わせる方式が定着したのです。
 新国立劇場は、開場当時このダブルキャスト方式を踏襲していましたが、今はシングルキャスト制になっていますので、公演は隔日またはそれ以上空けて行っていることはご存じの通りです。当時、日によって歌う人が違うのは好ましくないといった批判があったやに聞いています。
 私たちは会場をレンタルする以上、ダブルキャスト制を今後も続けざるを得ません。そこで、このハンディを逆手にとって公演の魅力を上げることを考えるようになりました。藤原歌劇団は外人が主役を歌う組と日本人だけの組でダブルを組んでいます。一方二期会では当初ベテランと若手といった組み合わせをしていましたが、名前の知られた歌手の出る組に観客が偏ってしまう問題がありました。しかし歌手の質・量がどんどん向上してきた現在では、それぞれの組に特徴を持たせて魅力的なダブルキャストが組めるようになっています。
 ドラマ性を重視するために立ち稽古の期間を長くとることが多くなるにつれて、両キャストがチームワークよくお互いに工夫を凝らして個性のある演技をするようになって、比較する面白さも増してきました。事実、両キャストともにご覧になる方が増えているのは嬉しいことですし、何よりも声楽家の団体としては一つのプロダクションで2倍の歌手達が出演できるのも魅力です。
 2300席を有する東京文化会館のような大型ホールではかつては3回公演がやっとでしたが、ダブルキャストで同じ回数歌うことを考えると、4日で9千席を売らなければなりません。ところが、最近は演目によっては4回公演ができるようになりました。これは勿論公演のレベルが上がった証だといえますが、ダブルキャストを魅力に変える工夫が一役買っていることも確かだと思われます。(常務理事 中山欽吾)

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