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Interview | インタビュー

二期会ゴールデンコンサートに初登場

2009年12月5日(土)二期会ゴールデンコンサートin津田ホールvol.27で、ソロ・リサイタルを行うソプラノ林正子さん。今回は自身のもっとも得意とするフランス音楽のプログラムをお贈りします。


Q 今回のゴールデンでは、選曲にどんな意図を込めたのでしょうか。

今回のリサイタルでは、良い意味でのサプライズを感じていただきたくて選曲しました。
フランス人は異国に対する憧れ、エキゾチックなものへの憧れが人一倍強い国民のような気がします。フランス歌曲を勉強していると、すべての作曲家がかなりの割合で題材を異国に求めています。特にスペインとアラブの国々が多いようです。
今回は、あえてそんな曲を選びました。

――最初に歌われるベルリオーズ〈ザイド〉は、ボレロのリズムに乗ったスパニッシュで情熱的な旋律が魅力。ドリーブ〈カディスの娘〉のカディスとはスペイン・アンダルシア地方の町の名前。そのほか、グノー〈ヴェネツィア〉、マスネ〈スペインの夜〉、シャブリエ〈幸福の島〉、ラヴェル〈ヘブライの歌〉、サティ〈アメリカの蛙〉など、こうして曲名を並べるだけでも異国情緒があふれてくるプログラミング。まさにデュパルク〈旅へのいざない〉ですね。

フランス歌曲を聴きにいらした方々に、フランス人(一部外人を含む)作曲家がつくるスペイン、イタリア、アラブ、南の島、イギリス、そしてアメリカの世界を、旅していただきたいと考えています。
現代のフランスでも、異国趣味の傾向は見られると思います。映画音楽の世界では、ガブリエル・ヤレドという、イスラエル出身の今はフランス系作曲家に顕著に受け継がれています。
彼は、映画「イングリッシュ・ペイシェント」の音楽も担当していましたから、耳になさったかたも多いのではないでしょうか? アラビアのどこまでも続く砂漠と、ロマンチックなややフランス風のオーケストラが独特の世界観をつくっていました。

Q 林さんとフランスとの最初の出会いは幼い頃のパリ旅行だったそうですね。

1980年に両親とはじめてパリを訪れました。
はじめてのパリの印象は「石ばっかりの暗い町だなあ」というもの。まさか将来この町の文化と縁ができるなんて、夢にも思っていませんでした。
当時、私の通っていた小学校には、フランス語の授業がありました。 旅行中、シャンゼリゼの大通りをふざけて後ろ向きに歩いていて、知らないおじさんにぶつかって、思わず「パルドン、ムッシュー!!!」 おじさんは、アジア人の女の子がフランス語で話すのが面白かったのか、にこにこ。しゃべった本人は、習いたてのフランス語が通じたことにびっくりでした。

Q オペラ歌手になろうと思ったのは、いつ頃でしたか?

本格的に歌の勉強を始めたのは、かなり遅くて17歳ぐらいでした。
でも、きっかけ自体は早かったのです。小学校のとき、音楽の先生に「君は声が良いから、将来声楽家になるのもいいね」と褒められて、その気になってしまいました!
家に帰って、さっそく母に歌を習わせてくれと頼みました。すると、「一年間言い続けたら、習わせてあげる」。
その言葉を信用してがんばって言い続けたのですが、何年たっても習わせてくれる気配がありませんでした。
大学受験が迫っていました。結局17歳のとき、普通の大学の受験対策をしながら、歌の稽古の「二足のわらじ」を履くことになってしまいました。
親の勧めにしたがって一度は普通の大学に入ったのです。そこで、弁護士を目指して法律の勉強に励もうと、一度は思ったのでした。
けれど、やっぱり最初の夢は捨てられず、親に内緒で芸大を受験しました。そして合格はしたのですが、入学後も5月まで、親に以前の学校はやめて音楽の道に進学したことを話す勇気がありませんでした・・・
自分がはっきりとオペラ歌手を志したのは、いつだったのか? おそらく、舞台でたくさんの役をやらせていただいている間に、自分以外の人の人生を再現することに自然と目覚めていったのではないか、と思います。
デビューは、原田茂生先生の指揮で『魔笛』のダーメ1でした。 今では考えられないことですが、最初の頃はオペラに出演するたびに、終わってから知恵熱を出すような体調になって寝込んでいました。

Q そして、2000年からスイス・ジュネーヴを拠点に音楽活動をされます。フランス語圏の暮らしの中で、印象深いお話を聞かせてください。

まず、ジュネーヴに引っ越すときに決めていたのは、旧市街に住むこと!
現在の私の住まいは、旧市街の中心の広場から歩いて10秒のところにあります。
なぜ旧市街にしたのかというと、ヨーロッパの生活を自分の体に覚えさせたかったから。
例えば、『ラ・ボエーム』の主人公ミミは、病気の体で石畳の凍てつく道を歩いて、どんなふうに屋根裏部屋まで階段をのぼったのか。『椿姫』のヴィオレッタは、自分のベッドの上で、どんなふうにお祭りの喧騒を聞いていたのか。教会の鐘は日常生活ではどんな役割があり、どんなふうに聞こえるのか。
今はヨーロッパの街も現代化されて、昔の暮らしを偲ぶものは少なくなりましたが、旧市街にはまだ残っています。 石畳の道の真ん中には、中世からの生活排水用の溝があって、細いヒールの靴はすぐにだめになります。冬は、底冷えがするほど道が冷たいです。
教会の鐘は一時間ごとに鳴るので、慣れるまでは鳴るたびに夜中でも目を覚ましました。今はぐっすりです。慣れてくると、鐘の音とカリヨンの音で、今日は何の日なのか(なんの祝日なのか)わかるようになります。
風邪を引いて寝込んでしまったとき、一人暮らしの留学生だった私は、外がお祭りのパレードで賑わっていても、部屋でその音をひっそりと聞き、いつもよりもたくさんの孤独を味わいました。なんとなく、ヴィオレッタの悲しみが理解できた瞬間でした。

いちばん印象に残っていることは、友人宅でのパーティーの晩のこと。
そこは大きな広場を囲むようにして、アパート群が建っている住宅地でした。スイス人が集まったため、夏だったのにチーズフォンディユをすることになり、暑いので窓を全開にしていました。
お酒も入って盛り上がり、「じゃあ歌おう」ということで、オペラのアリアを一曲歌ったのです。
すると、外から嵐のような拍手が。「広場でコンサートでもやっているのかな」と窓から顔をだしたところ、アパート群のバルコニーというバルコニーに人が出ていて、こっちに向かって拍手をしていたのです!
アンコールに応えて、もう一曲『蝶々夫人』のアリアを歌いました。

Q ヨーロッパの旧市街は本当にオペラの世界と地続きなのですね。生の歌声が広場に響き渡るというのも、石畳が敷かれた旧市街ならではの出来事なのだなと思いながら聞きました。ジュネーヴでの生活を通して音楽性を深めている様子が伺えました。 演奏活動において大切にしていることはありますか?

「作曲家の意図を最大限尊重しよう」です。
このことで思い出深いのが、テアトロ・サン・カルロでグスタフ・クーンさん指揮ヴェルディ「レクイエム」のときのマエストロの一言です。
今にして思うと、若気の至りというか、やる気まんまんでリハーサルにのぞんだ私に、マエストロが言いました。
「今のは楽譜に書いてあった?」
私、「いえ、書いてありませんでしたが、自分なりにこの方が良いかと思って・・・」
マエストロ、「そう。では、君がヴェルディよりも音楽がわかっていると思えるのならそうしなさい。だが、もしそうでなければ、書いてあるとおりにやるのがいいだろう。」
この言葉には、背中に雷が落ちたようなショックが走りました。
音楽家はリハーサルに行くまでの期間、それこそ、穴が開くほど楽譜とにらめっこをしていると思います。私もこのとき以来、それまで以上に楽譜を熟読し、作曲家の意図を読み取ろうとするようになりました。今、そこにちょっぴり自分なりの風味が出せるように、試行錯誤の毎日です。

Q 来年7月には、東京二期会オペラ劇場公演ベルリオーズ『ファウストの劫罰』に出演が予定されています。林さんの中で、フランス音楽のもつ意味合いが近年ますます大きくなっているように思われますが、最後にフランス音楽に対する意気込みを語っていただけますか。

現在の師であるジル・キャスマイユ氏が『ペレアスとメリザンド』に出演しているのを聴いたとき、彼はほんとうに話すように歌っているのでした。歌うということは話すこととそんなに大差がないんだなあ、と今更ながら驚嘆し、目からうろこが落ちたようでした。
どの言語の歌もそうなのかもしれませんが、フランス語の響きの美しさは格別だと思います。また、たとえば、リエゾン(※1)を入れるか入れないかで雰囲気を変えることができたりして、言葉の扱いとしての「遊び」の部分があって、今はそれを楽しむことができるようになりました。
もちろん、歌うときのフランス語と日常会話のそれはかなり違うものではあるのですが、話すように歌う、歌うように話すことを理想にして、少しずつ自分の音楽や日常の生活も深めていけたら、と思っています。
今度のゴールデンコンサートで、そんなふうに今自分が取り組んでいるものをお伝えできれば嬉しいです。
ぜひ聴きに来てください!

※1 通常発音されない語尾の子音と次の単語の語頭の
母音が連続して発音されること。

林 正子の今を聴きにいこう

  東京二期会オペラ劇場 2010年7月公演

  H.ベルリオーズ『ファウストの劫罰』

4部からなる劇的物語 字幕付原語(フランス語)上演
■日時:2010年7月16日(金)、18日(日)両日とも14:00開演
■会場:東京文化会館 大ホール
■マルグリート役で出演予定!

  二期会ゴールデンコンサート in 津田ホールVOL.27  《ご来場ありがとうございました!》

  林 正子(ソプラノ)×1980パリ、2000ジュネーヴ

■日時:2009年12月5日(土) 16:00開演(15:30開場)
■会場:津田ホール(JR千駄ヶ谷駅前/都営大江戸線国立競技場駅A4出口前)

(お客様のアンケートから)
  • ●林ワールドに魅せられ感動(歌唱力、テクニック、声色、姿勢等満足)
  • ●とても楽しい1日になりました。おかげで悲しい気持ちもふっとびました。
    どうもありがとうございました。今後も林さんのすてきな歌で、みなさんをはげましてあげてください。
  • ●特に後半がよかった。
  • ●林さんが美人で声もきれい。素晴らしかったです。ピアノもしっとりとマッチしていて良かった。
  • ●テーマ、選曲、そして演奏、全てがたいへん楽しかったです。

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