「二期会の流儀」  オペラの制作現場からーその16

 オペラの制作なんてどの団体でも似たり寄ったりだろうと思われる方も多いでしょうが、様々なプロダクションで出演経験のある歌手に聞いてみると、それぞれ個性があるようです。
 最近公演した『ナクソス島のアリアドネ』のプロローグでは、勿論劇中のことで大げさに描かれてはいるのですが、高慢で自己主張の強いプリマドンナや、テノール歌手が現れ、音楽教師や作曲家と丁々発止のやりとりが行われ、笑ってしまいます。多くのイタリアオペラでは、少数のスター歌手のアリアで全てが決まってしまうようなところがあるため、主役が特別待遇ということもあるでしょう。
 ご承知のように二期会の自主公演は出演資格を原則として二期会会員(準会員を含む)に限定しています。ですから、オーディションでの熾烈な競争があったにせよ、選ばれた歌手達は稽古場では皆対等です。最近の公演では、ドラマを重視する演出家が厳しい注文を出すのが当たり前になっているだけに、主役だからといってうかうかできません。1か月以上続く長丁場の稽古で、若手歌手達は自分たちと同じ目線で頑張る先輩の姿を見て、稽古に対する姿勢を学んでいきます。
 つまり、このチームワークの良さが《二期会の流儀》といえるでしょう。アンサンブルの良さということもできるでしょう。海外から参加する演出家や指揮者にもこのような現場の空気はすぐ分かるようです。例えばダブルキャストの稽古でも、チーム交代の休憩時間に次チームに今習った動作を申し送りする光景を見て、彼らは一様に、「休憩中に稽古をするなんて!」と驚き、「ダブルキャストで1か月の稽古では無理!」と断言していた演出家も、稽古終盤に向かってどんどん上がっていく歌手達のテンションをみて、公演のあとには「また一緒にやりたい」という発言になっていきます。
 『皇帝ティトの慈悲』に続いてコンヴィチュニーとともに『エフゲニー・オネーギン』を制作することになったのも、このような経験抜きには語ることができません。洋の東西を問わず、芸術家同士の真剣勝負は多くの果実を生みます。それがやがて歌手達自身の、そしてグループ全体の血肉となって進化していくのだと思わずにはいられません。(常務理事 中山欽吾)

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