タグアーカイブ: コンヴィチュニー

【『魔弾の射手』キャスト・インタビュー】 エンヒェン役でデビューするソプラノ熊田アルベルト彩乃「夢のようで、本当に幸せ」

また新しい才能が東京二期会オペラの舞台に――
現在ウィーンで活動中のソプラノ熊田アルベルト彩乃が、来る東京二期会オペラ劇場7月公演『魔弾の射手』エンヒェン役でデビューを飾ります!


熊田アルベルト彩乃

ウィーン国立音楽大学修士課程オペラ科第1期生として最高成績で修了し、ヘンデルからモーツァルト、プッチーニを経てシェーンベルクまで、幅広い時代の音楽と向かい合っています。
ペーター・コンヴィチュニーとの出会いが「オペラ歌手」を目指す大きな契機となったという熊田。今回の舞台にかける想いを、聞きました。

     *     *     *

――『魔弾の射手』のエンヒェンはどのような役ですか?

熊田: エンヒェンは、このオペラの中で「喜び」の役割を担っていると思います。陽気で、無邪気で、友達思いです。不吉な思いに囚われているアガーテを常に励まし、勇気づけ、笑わせることに一生懸命で、使命さえ感じているようです。
ただし、このオペラの中ではエンヒェンに恋模様が用意されていないので、アガーテに対して羨ましさも少なからずあると思います。
一途なあまりに、時々間違いを犯したり(精神的に追い込まれているアガーテに怪談話のようなジョークを話して気まずくさせてしまったり…)、うまく行かないと爆発してしまうこともありますが、そういうところが人間的で、共感していただけるのではないかと思っています。
これから稽古が始まって、この役が更にどのように深まっていくのか、楽しみです。
 
 
――エンヒェンのシーンでなくてもよいのですが、熊田さんの思う『魔弾の射手』の見どころ、聴きどころを。

熊田: 序曲から聴き逃すところのないオペラですので、一つに決めるのは難しいです。ですからあえて自分のシーンを推しますが(笑)、特に注目していただきたいのは3幕の頭です。
アガーテの美しいアリアから始まり、エンヒェンとアガーテの真剣な対話、そしてエンヒェンの歌いごたえのあるアリアから、ブライズメイトたちと花嫁衣裳の準備をするシーン。エンヒェンの内面が一番伝わる場面だと思うので、演じていてとてもスリリングだし、歯ごたえのあるところです。
特にこのエンヒェンの2曲目のアリアでは、コンヴィチュニー氏独自の特別な趣向も凝らされています。初めてこの演出を観た時はびっくりすると同時に、その説得力には目からウロコでした。これを一度見てしまった方は、他の演出では物足りなくなってしまうかもしれません。
 
 
――その演出家ペーター・コンヴィチュニーですが、特別な思い出があると聞きました。

熊田: はい、2009年に、東京藝術大学でコンヴィチュニー氏が特別講座を開いた際、実はこのエンヒェンの役で参加しました。
私はエンヒェンの2曲目のアリアを歌いましたが、なんとこの6分ほどアリアのために、マンツーマンで延べ4時間(!)かけて本格的にシーンを作って行きました。体力と集中力との闘いでしたが、こんなにチャレンジングな経験は新鮮で、本当に楽しかったのを覚えています。
当時私は独唱科の大学院生で、オペラで演じることの楽しさがまだよく分かっていなかったのですが、今思えばこのワークショップで演じることのコツを掴んだというか、オペラ歌手を目指すことに何か確信をもらったような気がします。
これがきっかけで、ウィーンで本格的にオペラの勉強をし、今ではオペラが演じたくて仕方ない体になってしまいました。
 
 
――最後に、本番への意気込みをお願いします。

熊田: 二期会オペラは、歌を始めてから何度も聴きに行き、憧れていた舞台です。今回、私がずっと演じてみたかったエンヒェンの役でデビューさせていただけることは、私にとって夢のようで、本当に幸せです。しかも、コンヴィチュニー氏の演出ということで、巡り合わせというのはあるものなのだな、と感じています。
公演が近づいて来るにつれて、これが現実で、どんなに責任のあることかを実感していますが、不思議と恐れは無く、良い緊張感の中で楽しみな気持ちがどんどん膨らんでいます。
私にしか歌えないエンヒェンを精一杯演じますので、どうぞ応援よろしくお願いいたします!

     *     *     *

熊田アルベルト彩乃の出演日は、7月19日(木)と22日(日)。
特に、19日(木)は平日マチネ・スペシャル料金のうえに、コンヴィチュニーのアフター・トークも開催されるため人気の高い日程になっています。良いお席はどうぞお早目に。

▼『魔弾の射手』公演情報ページはこちら
《ハンブルグ州立歌劇場との共同制作》 C.M.v.ウェーバー『魔弾の射手』 - 東京二期会オペラ劇場

 指揮:アレホ・ペレス、演出:ペーター・コンヴィチュニー、管弦楽:読売日本交響楽団
 2018年7月18日(水)18:30、19日(木)14:00、21日(土)14:00、22日(日)14:00 東京文化会館大ホール

●お問合せ・ご予約:二期会チケットセンター 03-3796-1831
   (月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)

Gettii ←24時間受付、予約&発券手数料0円、セブン-イレブン店頭でお受取の
インターネット予約「Gettii(ゲッティ)」も是非ご利用ください!!

 
 

Page Top

高橋淳と田村由貴絵、インターネットラジオ放送「カフェ・フィガロ」に出演

こんにちは、アーティスト広報のdiamondです!
今日は節分ですね。春はもうそこまでやってきています。
本日は林田直樹さんのカフェフィガロの収録に行ってまいります!
毎週火曜日夜8時に更新され3ヶ月間無料で聴くことができる人気番組で
クラシック業界のあれやこれやのギュッと詰まった内容が盛りだくさん。
今回は2月公演『サロメ』に出演するテノールの高橋淳と
メゾソプラノの田村由貴絵がゲストで出演致します。
takahashijun110203.JPG tamurayukie110203.JPG
2006年『皇帝ティトの慈悲』に主演した高橋、そして2008年
『エフゲニー・オネーギン』に出演した田村が
それぞれ30分ずつ2回にわけて音楽を聴きながらの音楽&人生談義。
コンヴィチュニー演出の魅力や今回の『サロメ』の特徴などについても
ご紹介いたします。放送UPは2月中旬予定☆お楽しみに~☆
▼林田直樹さんのカフェ・フィガロは2010年12月で10周年を迎える
インターネットラジオ放送局 ブルーレディオドットコムで絶賛放送中
林田直樹のカフェフィガロ - Blue-radio.com - ブルーレディオドットコム

一昨日はペーター・コンヴィチュニーも加わって益々熱気溢れる
稽古が繰り広げられている芸能花伝舎に行ってまいりました。
両組とも素晴らしいのでぜひぜひどちらもお見逃しお聴き逃しなく。
2011Feb_1keikoba110203.jpg
22日(火)が初日。また23日(水)は平日マチネ公演+公演終了後に
コンヴィチュニーアフタートークのおまけつき。
日本公演のあとはスウェーデン公演でしかご覧になれませんので
ぜひ東京でサロメの新しい世界観を発見してください。
指揮は今回の演出『サロメ』初演を2009年11/12月ネザーランド・オペラで
指揮しオパーン・ヴェルト(独オペラ専門誌)2007年最優秀指揮者に
選定された幻の巨匠シュテファン・ゾルテス Stefan Soltesz というのも
わくわくしますね。
▼『サロメ』2月22・23・25・26日 公演詳細はこちら
2011年2月公演『サロメ』- 東京二期会オペラ劇場
表題のサロメ役には林正子と大隅智佳子。
コンヴィチュニー演出では女性は悲劇のヒロインというよりも
未来を切り拓く鍵のような存在なのでしょうか。
2006年『ティト』では林正子が激しくも美しいヴィテッリアで魅了し、
2008年『オネーギン』では大隅智佳子がセンセーショナルな
タチアーナで一躍スターダムに駆け上がりました。
今回の競演から目が離せません。
hayashi110203.jpg
Tatyana08osumi110203.JPG
写真上:2006年東京二期会『皇帝ティトの慈悲』林正子
写真下:2008年東京二期会『エフゲニー・オネーギン』大隅智佳子
photo: 三枝近志
もっとコンヴィチュニー演出を知る手掛かりとして・・
▼田村由貴絵のブログ
ペーター・コンヴィチュニー合流・23日アフタートーク - 田村由貴絵のブログ
▼高橋淳の特集ページ
Pick-up Artist vol.14 テノール高橋淳の今 - 二期会21
▼公演監督 多田羅迪夫のブログ
オペラ歌手 多田羅 迪夫 紹介ブログ

Page Top

オペラ『サロメ』P.コンヴィチュニーのアフタートーク
2月23日開催決定!

オランダ/ネザーランド・オペラ、スウェーデン/エーテボリ・オペラとの共同制作公演、世界的演出家ペーター・コンヴィチュニー最新のプロダクション『サロメ』が観られるのは、日本では2月22日(火)、23日(水)、25日(金)、26日(土)東京文化会館だけ!
そのコンヴィチュニーが、23日(水)に限り、終演後のアフタートークを行うことになりました。

 
ペーター・コンヴィチュニー
■ペーター・コンヴィチュニーによる『サロメ』アフタートーク
 日時:2月23日(水)公演終了後(16:00頃開始予定)−約60分−
 会場:東京文化会館大ホール内
 出演:ペーター・コンヴィチュニー
 (司会)多田羅迪夫(当公演監督)
 (通訳)蔵原順子
 ・23日(水)のチケットをお持ちのお客様のみ参加できます。
 (他日チケットではご入場いただけませんのでご了承下さい)

オスカー・ワイルド原作の「サロメ」は、19世紀末の風潮を色濃く反映した、耽美主義的で、退廃的で、倒錯的な世界。
しかし、コンヴィチュニーが今回『サロメ』でテーマにするものは……<愛>。

<愛>!?

「愛の神秘は、死の神秘よりもはるかに大きい」そのことを知っているサロメは「非常に重要な、大いなる存在であって、もしかしたら私たちを救ってくれるほどの存在なのかもしれません」と先のインタビューで語っていたコンヴィチュニー(『二期会通信』2010年12月号より)。
いったいどういうことなのか。それは舞台で全て表現されることでしょう。それを、どのようにお感じになられるかは、お客様それぞれのもの。ご鑑賞後の感興をそのままに、あらためて演出家の語りに耳をかたむけていただければ、よりいっそう感慨を深めていただけるのではないでしょうか。
ご来場お待ちしております。

▼『サロメ』の公演詳細はこちらをご覧ください。
2011年2月公演 R.シュトラウス『サロメ』- 東京二期会オペラ劇場

Page Top

ペーター・コンヴィチュニーまもなく来日

卓越した演出手法で、数々のオペラを“現代”に蘇らせる、天才演出家ペーター・コンヴィチュニー。1月22日にオーストリア・グラーツで幕を開けたヴェルディの人気オペラ『ラ・トラヴィアータ(椿姫)』を見届け、まもなく日本へ。
今月末には東京二期会オペラ劇場『サロメ』の稽古場に姿を見せます。コンヴィチュニーはこれまでに二期会では、モーツァルト『皇帝ティトの慈悲』(2006年)、チャイコフスキー『エフゲニー・オネーギン』(2008年)を手掛け話題を呼びました。最近では日本の若手オペラ歌手のためのワークショップにも意欲的です。
楽譜にある音、休符、歌詞ひとつひとつから、人物がおかれた状況、心理状態を読み解き、隙間なく舞台に「その世界」を構築する、コンヴィチュニー・マジック! 世紀末的退廃、堕落、そして究極の耽美と称されるオスカー・ワイルドの小説『サロメ』は、コンヴィチュニーの手によって、2011年TOKYOに現れます。
生きて考える稀代の芸術、コンヴィチュニーの『サロメ』にご期待ください。
▼『サロメ』の公演詳細はこちらをご覧ください。
2011年2月公演 R.シュトラウス『サロメ』- 東京二期会オペラ劇場

<グラーツのオペラ座>について
第二次世界大戦中にも焼失の難を逃れた、ネオロココ様式の美しい劇場。ウィーン国立劇場が有名ですが、グラーツのオペラ座は欧州オペラ界の登竜門として名高く、世界的なオペラ歌手を輩出しています。指揮者カール・ベームの故郷でもあり、グラーツ旧市街は世界遺産に登録されています。
▼Oper Graz 公式ホームページの公演情報 
Programm - Oper Graz ~ページ中の「Anschauen」をクリックすると予告ムービーが見られます。
▼こちらはコンヴィチュニー演出『ラ・トラヴィアータ』の舞台写真が見られます。
Galerie - Oper Graz
コンヴィチュニーが演出する...と、世界中の音楽ジャーナリスト、劇場関係者が注目した『ラ・トラヴィアータ』。プレミエ前日はコンヴィチュニーの誕生日だったそう!

Page Top

「国際共同制作(4)」    オペラの制作現場からーその23

 国際共同制作によって我々が得たものは、決して少なくはありません。しかし、先方にとっても共同制作は重要な選択肢になっているのです。今、欧州の歌劇場は厳しい予算難に見舞われていて、劇場運営のあり方が問われています。厳しい予算の中でいい作品を出そうとすると、観客の重ならない複数の歌劇場が共同制作をする方法が一番優れており、すでに欧州の歌劇場はこのような共同制作は恒常的に行われています。2個所だけではなく数カ所が組んでやっているケースも稀ではありません。
下はハンブルグ州立歌劇場との共同制作『皇帝ティトの慈悲』記者発表。前列右から演出のコンヴィチュニー、指揮のスダーン、後列右から公演監督多田羅迪夫、主役の望月哲也、林正子、林美智子、幸田浩子の各氏
060412_press01.jpg
 計画が進んだ段階で、新たな劇場が参加を希望するケースも増えています。財政的に楽になるので、欧州の各劇場はお互いのネットワークをフルに使って情報交換をしているわけです。それに伴い契約内容もバラエティに富んだものになりつつあり、各団体の負担事項や参加団体での経費分担など、色々なケースの処理ができるようになりました。
 昭和音楽大学が前後7年間にわたって世界のオペラ事情に関わる研究を行い、筆者も研究員を務めましたが、その中で実際の共同制作契約の一例を紹介しています。例えば、かつら、履き物など、数百点におよぶ小物は、中には各劇場で汎用的に使っているものもあって、数ヶ月間日本に運ぶというわけにはいかない場合、我々が独自に調達するとか、演出による特有のものは、セットや衣裳とともに送ってもらうなど、きめの細かい作業が発生します。
 ドイツ人と日本人の体格の差も問題になることがあります。日本でもダブルキャストで同様の問題が起こりますが、1日で仮縫いをしてサイズを変えるようなことは当たり前の仕事です。しかし体格差がはるかに違えば、日本人専用の衣裳をあつらえる必要も出てきます。衣裳はまた使用後のクリーニングに至るまで細かい契約を作る必要があるのです。
 双方のオペラ制作のプロセスが全く違うことから生まれる様々な問題もあります。我々に不足している点や考え方を取得することもできましたが、一方で相手の歌劇場にとっても日本流のやり方は極めて新鮮に映ったようです。劇場に附属する装置・衣裳の工場を持つ欧州の劇場にとって、特に自前の工房も持たず、外注先とチームを組んでプロジェクトベースで行う日本の制作手法には目を見張りました。そのプロジェクトを現場で統括する舞台監督の活躍をみて、「神業だ!」とその手を握ったことが思い出されます。
 以上の他にも、欧州の州立レベルの歌劇場との共同制作は、日本にいて欧州と他流試合ができるという、願ってもない機会を与えてくれます。東京二期会では、今もコンスタントに海外の歌劇場との協力関係を続けながら、他のグループ、例えば自主公演をしているホールともグループを作って新たな共同制作の枠組みに取り組み始めています。次回以降にはその国内共同制作についてもとっておきのお話しをしたいと思っています。(常務理事 中山欽吾)

Page Top

コンヴィチュニー登場で『エフゲニー・オネーギン』の稽古ますます佳境に入る

     018X6450%2Anet.jpg
            コンヴィチュニー氏(右)とアニシモフ氏(左) ©広瀬克昭
 去る8月1日から始まっている立ち稽古は、当初ライプツィッヒ歌劇場第一演出助手のヴェレーナ・グラウプナー女史によってスタートしましたが、コンヴィチュニー氏が指揮者のアニシモフ氏とともに登場したことでますます活気を呈しています。顔見せ当初、出演者全員に演出意図を詳しく説明したあと、一通り全体を通すように指示。終わって最初のひと言が「来なくても良かったようだ」。しかしそれがジョークであることはすぐに分かりました。「指示されたとおりに動くのは操り人形と同じ。自分の意志で動くことが大切だ」とコメントして、早速各場毎にきめ細かいダメ出しをして行きました。
 一動作ずつ区切って、最初は皆に任せてやらせてみて、いいところは大きな声と動作で素晴らしいと誉め、演出家の意図と少しでもずれていれば、その場の人間関係とそれぞれの人物の感情や相互の関係を歌手と確認しながら、何度も確認しながら修正していくのです。驚いたことに、そうする内に皆の動きは魔法をかけたようにみるみる生き生きとしてくるのでした。
        %E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%83%BC%E7%A8%BD%E5%8F%A4.jpg 写:KN 
 稽古が終わり、マエストロ・アニシモフから、「色々な国でロシア語のオペラを振ってきたけれど、このチームが一番ロシア語になっている」とコメントがあり、声楽家出身の山下健二氏による言語指導が如何に優れたものかを全員が納得することとなりました。
 オリジナルの演出は、日本人出演者の持ち味を生かしながら新たな進化を続けており、本番まで3週間残した現時点での充実した稽古を見ていると、本番ではどんなすごいものが出てくるのかと、期待が膨らむ毎日です。(常務理事 中山欽吾)

Page Top

観るものすべてが心を動かす 二期会の『オネーギン』

MOSTLY CLASSIC(モーストリークラシック)[9月号]「コンサート特選館」掲載
4識者のうち3氏までが押す★★(ふたつぼし)★★★(みつぼし)期待の公演!!
 日本のオペラファンの間でも、天才演出家として名を知られるペーター・コンヴィチュニーが、2006年4月の『皇帝ティトの慈悲』に続いて、再びこの秋「東京二期会」にやって来ます。
 
 ここ数年、コンヴィチュニーの名声が高まるにつれて、『魔笛』『アイーダ』の引越し公演も東京で上演されましたが、いずれも少なからず事件、として話題を提供するという意味では、もう鬼才としかいいようがありません。
 この『エフゲニー・オネーギン』は、ブラティスラヴァ(スロヴァキア国立劇場)で制作され、その後ヨーロッパの劇場で再演も続く「コンヴィチュニーの代表作」として残る逸品であることは間違いありません。チャイコフスキーの叙情的な音楽、決闘に至る葛藤、失われた時代への憧憬、観るものすべてが心を動かします。
 コンヴィチュニーが手掛ける舞台は、現代社会にコミットするとともに、発見の楽しみがあります。その手法は、あくまでもスコアを緻密に研究するいわば哲学的ともいえる演出で、いわゆる奇を衒ったものではありません。まして、コンヴィチュニー自ら真夏の東京に来日し、一か月をかけて稽古をつけるというからその意気込みも伝わってきます。
 kuroda_hiroshi.jpg 黒田 博   yonashiro_kei_2.jpg 与那城 敬
 このオネーギンに集結するのは、二期会きっての一流歌手たち。ベテラン黒田 博、稀にみる逸材として注目される若手バリトン与那城 敬が、暗く複雑な性格の若い貴族オネーギンを演じます。2004年11月ウィリー・デッカー演出『イェヌーファ』タイトルロールで話題をさらった津山 恵と、大型新人・大隅智佳子のタチアーナによって歌われる長大な“手紙のアリア”は、コンヴィチュニー演出の中でも白眉といわれるシーンで今から楽しみです。
 管弦楽は東京交響楽団、指揮はアニシモフ。
 前評判の高い公演にはがっかりさせられることも少なくないと思われる皆様にとっても、きっとこの秋一番の“オペラ”となります。是非、騙されたと思ってご来場ください。
2008年9月公演『エフゲニー・オネーギン』公演詳細 - 東京二期会オペラ劇場
MOSTLY CLASSC - Webサイト

Page Top

「二期会の流儀」  オペラの制作現場からーその16

 オペラの制作なんてどの団体でも似たり寄ったりだろうと思われる方も多いでしょうが、様々なプロダクションで出演経験のある歌手に聞いてみると、それぞれ個性があるようです。
 最近公演した『ナクソス島のアリアドネ』のプロローグでは、勿論劇中のことで大げさに描かれてはいるのですが、高慢で自己主張の強いプリマドンナや、テノール歌手が現れ、音楽教師や作曲家と丁々発止のやりとりが行われ、笑ってしまいます。多くのイタリアオペラでは、少数のスター歌手のアリアで全てが決まってしまうようなところがあるため、主役が特別待遇ということもあるでしょう。
 ご承知のように二期会の自主公演は出演資格を原則として二期会会員(準会員を含む)に限定しています。ですから、オーディションでの熾烈な競争があったにせよ、選ばれた歌手達は稽古場では皆対等です。最近の公演では、ドラマを重視する演出家が厳しい注文を出すのが当たり前になっているだけに、主役だからといってうかうかできません。1か月以上続く長丁場の稽古で、若手歌手達は自分たちと同じ目線で頑張る先輩の姿を見て、稽古に対する姿勢を学んでいきます。
 つまり、このチームワークの良さが《二期会の流儀》といえるでしょう。アンサンブルの良さということもできるでしょう。海外から参加する演出家や指揮者にもこのような現場の空気はすぐ分かるようです。例えばダブルキャストの稽古でも、チーム交代の休憩時間に次チームに今習った動作を申し送りする光景を見て、彼らは一様に、「休憩中に稽古をするなんて!」と驚き、「ダブルキャストで1か月の稽古では無理!」と断言していた演出家も、稽古終盤に向かってどんどん上がっていく歌手達のテンションをみて、公演のあとには「また一緒にやりたい」という発言になっていきます。
 『皇帝ティトの慈悲』に続いてコンヴィチュニーとともに『エフゲニー・オネーギン』を制作することになったのも、このような経験抜きには語ることができません。洋の東西を問わず、芸術家同士の真剣勝負は多くの果実を生みます。それがやがて歌手達自身の、そしてグループ全体の血肉となって進化していくのだと思わずにはいられません。(常務理事 中山欽吾)

Page Top