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Interview | インタビュー

オペラだけにとどまらず、ジャズやポップスといったクラシック以外の分野でも活躍中の腰越満美さん。6月には服部克久氏(作曲家)と共に、二期会Week in サントリーホールで明治から平成までの“にほんの歌”の魅力に迫ります。多彩で幅の広い表現力を持ち、観客を魅了し続ける腰越満美さんの秘密に迫ります。

2008年京王オペレッタフェスタ『チャルダーシュの女王』より
歌が大好きな女の子

音楽との出会いは5歳のころ習い始めたピアノです。どうしてもピアノをやりたくて。でも習い始めるとハノンとかブルグミュラーとか、先生から頂く課題は全然練習しなかったんです。代わりに、当時流行っていたフォークソングやニューミュージックの曲集を広げ、チューリップやユーミン(松任谷由実)の曲をピアノを弾きながら歌っていました。楽譜が無い曲などは耳コピ(聞いたままに記憶をたどって)して適当にそれらしく歌っていました。全てハ長調で!(笑)今で言うとカラオケで歌う感じかしら。練習は大嫌い、自由に弾いて歌うのは大好きな小学生でした。

ライブハウスからクラシックの世界へ!?

中学から高校生の頃はヴァン・ヘイレンやイーグルスといったロックやアース・ウインド&ファイアなどのソウルにもハマリました。
コード弾き(コードネームを基にアレンジをしながら弾くこと)のレッスンを受けたり、ジャズを聴かせるライヴ・ハウスに通ってジャズヴォーカルのライブを良く聞きに行っていたんですよ。伊藤君子さんや笠井紀美子さんの歌が大好きでした。それで私もその道に進みたいと思っていたんです。けれども高校の卒業が近づいてきた時、ピアノの先生から“あなた、せっかく歌が上手なんだから、音楽の学校へ行って本格的にアカデミックな演奏も学んでおいたほうが良いわよ”とアドヴァイスを頂き受験の為のレッスンが始まったんです。そこからかな、キチンと声楽を学び始めたのは。

「サウンド・オブ・ミュージック」マリア役
「サウンド・オブ・ミュージック」リーズル役
声楽家、腰越満美のルーツ

学校に入ると、とにかく歌に舞台にのめり込みました。1年生の時に『カルメン』の合唱で舞台に立った時の感動は忘れられない思い出ですね。みんなで作り上げるオペラの素晴らしさ、歌うことの楽しさにすっかり魅了されて。それがきっかけで、サークルを仲間と立ち上げてミュージカルも始めたんです。カリキュラムとは関係ないのに先生方も力を貸してくださって、学外での発表の場をどんどん作ってきて下さったんです。学生の数が多くなかった為か、オペラや第九の合唱、歌のレッスン、全てにおいて先生と学生が一体になって新しいことに取り組む自由な雰囲気があったんですね。変な競争心が無く、みんなで楽しく真剣に音楽と向き合った貴重な時期でした。

初めて知った外の世界

その後、運良く!?二期会オペラスタジオのマスタークラスに入ることが出来たのですが、まわりを見るとみんな上手いし、レパートリーもたくさん持っている精鋭ばかり、レベルの違いにショックを受けました。でもそんな状況にも徐々に慣れ、冷静に自分が見えてくると今度は表現したいことと実際に自分が出来ることのギャップに苦しみました。思い描くイメージは張り裂けるほど膨らんでいるのに歌えないんです。
そしてイタリアへ留学。“良い先生はジュリアードに集まっているからアメリカに行くと良いんじゃない?”と先生から助言していただいたのですが、どうしてもイタリアでベルカントの発声を学び、その空気と文化の中で生活したくてイタリア留学を決めました。
発声の基礎から学び、苦しみ続けた演奏でのギャップが少しずつ埋まりはじめた2年目、先生がレッスン中に“あなた、よくここまで歌えるようになったわね”って涙を流しながら喜んで下さった時は本当に嬉しかった!イタリアに来て良かったって、素晴らしい出会いに感謝しました。

表現者、舞台人として

日本人が持っている良さってありますね。オペラでも日本を題材にした作品では所作が大切だと思います。特に日本の作曲家の作品、例えば最近歌わせていただいた『黒船』や『天守物語』の場合、内に秘めた感情を表現するというような、あからさまに表現できない微妙な美しさや情緒が音楽の中にあります。そこに日本人らしい表情や立ち居振る舞い「所作」が加わることで心を打つ濃厚な表現が出来るのだと思います。一方で『蝶々夫人』では外向きな表現も要求されるので、舞台に立てば立つほど越えるべき課題が増えてきます。表現するということで言えば、オペラだけでなく映画音楽・ジャズ・ポップス、何れも作品が持っている美しさやメッセージを伝え、お客様と分かち合うという点では同じように感じています。発声は全く違うので難しいんですが、ここ数年丸山和範さん(作曲家・ピアニスト)とご一緒させていただき、このようなジャンルにも取り組んでいます。
どんな声でも個性として許され、クラシックにあるような制約は無いジャズやポップスの魅力を、ジャズシンガーを目指していた頃の私でなく、声楽を学んできた今の私なりにどこまで表現できるかという新たな挑戦だと思っています。

2008年2月 新国立劇場『黒船』 お吉役(撮影:三枝近志)
二期会Weekで聴く“腰越満美の今”

6月15日(月)の公演では服部克久さん、丸山和範さんとご一緒に、明治・大正時代から現代までの“にほんの歌”を歌わせていただきます。
クラシカルな美しい発声で表現される“日本歌曲”から始まり、ジャズやブルース、ブギなど舶来の音楽がビビットな色彩で昇華されている“昭和の歌謡”、日本語の美しさと強いメッセージを秘めた“J-POP”と、一見バラバラに思われるジャンルの中に流れる日本人ならではの情緒を表現することができればと思っています。現代の“にほんの歌”としては“J-POP”のほか、武満徹さんの「SONGS」、丸山和範さんの新曲(世界初演)も楽しみです。
コンサートの後半では、服部克久さんのスペシャルアレンジで「蘇州夜曲」や「東京ブギウギ」など服部良一さんの“昭和の歌謡”が蘇(よみがえ)ります。克久さんが弾かれるのはローランド社製最新鋭の電子ピアノ!予想外の響きと魅力が奏でられることと思います。“にほんの歌”の一瞬の煌めきと感動をご来場いただいた皆様と一緒に分かち合うことが出来れば幸せです。

腰越 満美の今を聴きにいこう

毎年恒例の二期会Week in サントリーホールが今年も開催されます。
驚きと感動の7日間。初日を飾る腰越満美のステージは、服部克久氏お話しと演奏を交え
にほんの歌の魅力に迫ります。一夜限りの感動をお聴き逃しなく!!

  二期会Week in サントリーホール「愉しみの刻」2009

  第1日 “時を駆ける歌声”服部克久が贈るにほんの歌の旅

■日 時:2009年6月15日(月) 19:00開演(18:30開場)
■会 場:サントリーホール ブルーローズ(小ホール)
■出演者:ソプラノ 腰越満美、ピアノ・作曲 丸山和範、構成・お話し 服部克久
■演奏予定曲目

宵待草(作曲:多忠亮/作詞:竹久夢二)
蘇州夜曲(作曲:服部良一/作詞:西条八十)
東京ブギウギ(作曲:服部良一/作詞:鈴木勝)
白バラの歌 (作曲:服部良一/作詞:勝浦洸)
SONGSより(作曲:武満徹)
夜空のムコウ(作曲:川村結花/作詞:スガシカオ)
ほか

丸山和範 Maruyama Kazunori

東京芸術大学作曲科卒業。現代作品の作曲から放送番組のための音楽制作、CD録音、内外のアーティストのための編曲、作曲など幅広い活動を行っている。NHKニュース「おはよう日本」、NHK連続ドラマ小説「ちゅらさん」、NHK土曜ドラマ「繋がれた明日」、日本テレビドラマ「プリマダム」、NHKスペシャル「イスラム潮流」などの音楽、その他ドラマ、アニメなどのTV番組の音楽を多数手掛けている。音楽劇「奥様の冒険」(なかにし礼:脚本)、創作音楽劇「きかんしゃ先生」(山川啓介:脚本/伊集院静:原作)の作・編曲、音楽監督を務める。“イマージュ5”にNHKスペシャル「アフリカ・ゼロのテーマ〜地平線からの祈り」を収録。世界遺産宮島の厳島神社にて「清盛の夢-我が心の厳島」(音楽と舞踊)を発表。東京芸術大学講師、国立音楽大学作曲科准教授。

 

服部克久 Hattori Katsuhisa

昭和11年11月1日11時、東京都生まれ。
パリ・コンセルヴァトワール修了。帰国後は作曲活動のかたわら、さまざまなジャンルの音楽監督やプロデューサー、また、音楽祭の理事や審査員として精力的に活動を行う。最近では音楽家という枠を超え、イヴェント・プロデューサーやピアニスト、指揮者、司会者としてテレビに出演するなど、才気あふれる活躍が注目を浴びている。日本作編曲家協会会長、日本作曲家協会理事、東京音楽祭会長などを歴任、日本の音楽シーンの発展に尽している。
主な作品に、アルバム「音楽畑」1〜20、音楽畑「マインドミュージック」、アルバム「Tokyo Pops」1〜8、合唱組曲『ガラスの兎』、『ブーケ』、 『ル・ローヌ』、『自由の大地』、『すごい男の唄』など。

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