【二つのサロメ】~『エロディアード』エロデ役のバリトン小森輝彦に聞く~威厳ある王が抱く、少年のような恋心

ドイツのアルテンブルク・ゲラ市立劇場の専属第一バリトンを長きにわたり務め、2011年、日本人初となるドイツの「宮廷歌手」の称号を授かる小森輝彦。4月公演『エロディアード』にて古代パレスティナ・ユダヤの国を治めるエロデを務めます。
第一線のオペラ、オーケストラ・コンサートで引く手あまたの活躍を続ける小森。指揮のミシェル・プラッソンとは、2010年『ファウストの劫罰』、13年『ホフマン物語』と過去2回の東京二期会公演に主演し、共演を果たしてきました。
舞台の上ではもちろんのこと、ドイツでそうであったように、二期会オペラの稽古場でも小森は常にリーダー的な存在。毎回差し入れる自家製ドイツパンを楽しみにしている共演者も多いとか。

▼差し入れの自家製ドイツパンのこと
私の差し入れ Vol.3 Baritone 小森輝彦×自家製ドイツパン|オペラを楽しむ - 東京二期会

奇遇なことに、その二期会デビューは、2000年4月新国立劇場共催公演『サロメ』ヨハナーン役でした。今、小森にとって「ふたつめのサロメ」となる『エロディアード』にむけて、話を聞きました。



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――『エロディアード』のエロデは、どのような人物でしょうか

小森: 恋の熱に浮かされて、王としての自分の責務を忘れるほど、ある意味で純粋、ある意味で浅薄な人物と思っています。政治的な自分の立場を、恋する男としての自分の想いによって大きく動かしてしまうところは浅薄に思えますが、愛に見る彼の真実を浮かび上がらせたいです。


2010年7月 東京二期会 ベルリオーズ『ファウストの劫罰』より メフィストフェレス役(右)

――「ふたつのサロメ」~マスネ『エロディアード』とR.シュトラウス『サロメ』を続けて上演するのですが、同一人物である「エロデ」と「ヘロデ」、または預言者「ジャン」と「ヨハナーン」との関係性の違いまたは共通する点はありますか

小森: 『サロメ』でのヘロデは、恋する男、と言う要素は見せているものの、純愛とは遠い形ですね。『エロディアード』のエロデは、まるで初恋のようにサロメに恋をします。少年の様です。それでいて王の威厳もあるのですが、この人物のひどいところは、あろうことか、国の政を自分のその少年の様な恋心のために利用し、曲げてしまおうとするところです。ユダヤの民の運命を自分の恋に利用するのです。その利己的な姿勢は道徳的には容認できるものではありませんが、マスネの音楽を伴うとそこに納得がいってしまうのです。ここでも音楽の魔力を見る気がします。
『サロメ』の予言者ヨハナーンは、僕の二期会デビュー、新国立劇場デビューの役で、もう19年前のことでした。『エロディアード』のジャンも、サロメへの態度は全く違いますが、オペラでの役回りは、多くはない出番でその清らかさ、力強さ、ブレのなさを表現する手法は、両作曲家において類似しています。
このエロデはバリトンですが、バス・バリトンの『サロメ』のヨハナーンとは違ってハイバリトンの音域で、テノールに近い、明るい、まさに「恋する男」の表現にぴったりな音楽になっています。


2013年7,8月 東京二期会 オッフェンバック『ホフマン物語』より

――エロデの聴きどころを教えてください

小森: なんと言っても有名な第2幕のアリアです。これは僕はドイツ時代にレコーディングしていて、日本でも配信されているようです。
あとはサロメとの第3幕の二重唱は、音楽的に非常に多層的で、エロデの人物像が垣間見られる気がします。

――『ファウストの劫罰』『ホフマン物語』につづいて3度目のマエストロ・ミシェル・プラッソンとの共演です。これまでの共演で、印象に残っているマエストロとのエピソードがあれば教えてください

小森: オケ合わせでマエストロ・プラッソンの言葉ひとつでオケの色が夢の様に変わっていく様が、今でも脳裏に焼き付いています。音楽にも、言葉、発音にも非常に厳しいプラッソンさんですが、今回も何とか食らいついて生きたいと思っています。ドイツの劇場で歌っている時も、劇場の同僚やドイツの聴衆からも圧倒的な支持を受けていたマエストロ・プラッソンでしたので、その当時から共演を夢見ていました。三度も東京で共演出来るのは夢の様です。世界最高峰のマスネを紡ぐマエストロ・プラッソンにがっちりついていきたいと思います。


2018年2月 東京二期会 ワーグナー『ローエングリン』より フリードリヒ役(左)

――お客様にむけてメッセージをお願いいたします

小森: マエストロがインタビューでもお話しされているとおり、「旋律の魔術師・マスネ」が声と楽器の絶妙なバランスで作り上げた、大傑作だと思います。グランドオペラ形式で書かれていて大がかりな舞台やバレエなどが必要な事もあり上演頻度が低いのは非常に残念なことで、コンチェルタンテ・シリーズで取り上げるのに最適な作品です。この機会をお見逃しなく!

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▼小森輝彦のエロデは4月27日(土)  《チケット発売中!》
〈東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ〉2019年4月公演 J.マスネ『エロディアード』 - 東京二期会オペラ劇場

2019年4月27日(土)17:00、28日(日)14:00 Bunkamuraオーチャードホール
指揮:ミシェル・プラッソン、管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団、合唱:二期会合唱団
〈主催〉公益財団法人東京二期会、Bunkamura

●お問合せ・チケットのご予約は
二期会チケットセンター 03-3796-1831
(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
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