7月公演 ワーグナー『パルジファル』~クリングゾル役 門間信樹インタビュー「人間じゃない存在なのに一番人間的」

二期会創立70周年記念公演、ワーグナー『パルジファル』キャスト・インタビュー。今回は、自身初ワーグナーにしてクリングゾル役に挑戦する門間信樹です。
端正な舞台姿と繊細な表現力を持ち、複雑な心理描写にも長けるバリトン。2012年二期会ニューウェーブ・オペラ劇場『スペイン時間』ラミーロで二期会デビュー。翌年『ホフマン物語』に出演後、長くニューヨークに活動の拠点を置き、2021年『サムソンとデリラ』で久しぶりに二期会オペラに戻ってきてくれました。
そして、今回のクリングゾル。本番に向けて話を聞きました。

――クリングゾルはどのような人物、役柄でしょうか?

門間: 今回が初役です。クリングゾルは、聖杯騎士団から破門されてしまったことで、ただ彼らに復讐がしたい。それだけを原動力として生きている人間、というか、魔法使いです。アムフォルタスから聖槍を奪いますが、でも、聖杯までも奪いたいとか、騎士団にもう一度入りたいとか、ではなくて、ただただ、聖杯騎士を官能的な欲望で惑わし、陥れ、復讐をし続けるという。このオペラの「悪役」です。自分は、あんまり悪役やらないんですけど(笑)
今回の舞台でも、セクハラ、パワハラ上司のような、乱暴な性格を持った人物として描かれているように思います。自分は穏やかな生活を送りたいと思っているのですが(笑)
でも、自分とは違うキャラクターだけに、演じるのが楽しいと思えるのかもしれません。楽しみたいと思います!

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2012年5月 二期会ニューウェーブ・オペラ劇場『スペイン時間』より ラミーロ役(右から2番目)

――これまでになかったクリングゾルが生まれそうですね。それでは、クリングゾル役の見どころ、聴きどころを教えてください。

門間: ワーグナーの音楽って、全篇にわたって絶対的なカッコよさがあると思っています!だから、聴きどころは?と聞かれると難しいのですけれど・・・・・・。
『パルジファル』は「苦悩」が大きなテーマのひとつといえますが、クリングゾルもまた苦悩しているのだと思います。屈折したものを抱え込んでいます。
最後のシーンで、クリングゾルはパルジファルにむかって槍を投げつけるのですが、槍はパルジファルに奪われ、彼を殺すことはできなかった。クリングゾルは失敗してしまうんですけれども、その瞬間、D-dur(ニ長調)の和音がパーッと高らかに鳴るんです。・・・これは、あくまで個人的な解釈なんですけれど、自分(クリングゾル)もパルジファルに救済されたのかな、って思うんですよね。ずっと復讐を胸にして、屈折して、苦悩をもって…この人生がずっと続いていくのかな、という存在の仕方でいると、パルジファルに救済されたかのような音楽に思えるんです。クリングゾルも、パルジファルが解放してくれたのかな・・・・・・聴きどころの答えになっているかどうか、わかりませんが。

クリングゾルって、バーン!と怒った後に、すぐ「ハハ!」と笑ってごまかしてみたり、そうした細かい描写に至るまで、「魔法使い」ということで人間じゃない存在として描かれているにもかかわらず、自分は、一番人間的に感じています。

――悪役というところから話が始まりましたけど、結局は「人間」なんじゃないかと。

門間: そうそう。人間が、他人に隠したいところを全部内面に同居させたキャラクターが、クリングゾルなんじゃないかな、と思うことがありますね。

――門間さんらしい、繊細な役作りの一端を話していただけたように思います。そんな門間さんは今年が二期会デビュー10周年。『スペイン時間』で出演したときの自身を思い出すと?

門間: 『懐かしいですね。10年ですか。恐ろしいですね(笑)
あの頃は、自分が精いっぱい、学ぶことが精いっぱいで、学んだことを稽古場で、そして舞台上で「どう出すか」ということに一生懸命でした。今は、むしろ、いろいろな方からいろいろなことを「吸収したい」という想いが強いですね。二期会ニューウェーブ・オペラ劇場は、若い同世代が集まって創り上げる現場だったので、刺激的でありましたが、今回のような東京二期会オペラ劇場の現場は、第一線の方からいろいろな歌手の方がいらっしゃるので、やはり、そうした人から「吸収」したいという想いになりますね。

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2021年1月 東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ『サムソンとデリラ』より ダゴンの大司祭役

――ニューヨークに活動拠点を移して、コロナ禍前までは長く日本とニューヨークをまたぐ活躍をしてきました。ニューヨークの音楽的な魅力を教えてください。

門間: オペラがすぐ聴ける街なんですよ!自分はメトロポリタン歌劇場のある沿線に住んでいたので、稽古が終わったら今夜は『トゥーランドット』観に行けるな、といって電車に乗って当日券を買ったり。タイムズスクエアにはオペラの広告や情報で溢れていて、オペラが街に溶け込んでいる印象がありました。
若い人たちのグループで、安い席でも、イブニングドレスを着て、大人の仲間入りのように観に来ていたり、オペラを観に行くというのが、人それぞれの生活の一部になっている街。 クラシック音楽を聴くことが、自分を高めるひとつのステータスで、知性のあらわれというイメージもありますね。誰もが、自分のアップルミュージックに、好きなクラシック音楽がひとつやふたつ入っているというような。

――そのようなシーン、日本でも実現できるようにしたいですね!最後に『パルジファル』本番に向けて意気込みを。

門間: 大好きなワーグナーに初めて出演することになり、譜読みもじっくりやりました。とにかく音楽が絶対的にかっこいいんです!だから、かっこいいクリングゾルを歌いたい。クリングゾルは暴力的で、嫌な奴ではあるんですけど、観ている方が、何かしら、彼の「悪」に共感していただき、心の奥の部分で通じあえるようなクリングゾルを演じ、歌えたらと思っています。

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▼『パルジファル』公演情報ページはこちら
2022年7月公演 R.ワーグナー『パルジファル』 - 東京二期会オペラ劇場
2022年7月13日(水)17:00*、14日(木)14:00、16日(土)14:00*、17日(日)14:00 東京文化会館 大ホール
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ/演出:宮本亞門/管弦楽:読売日本交響楽団
*…クリングゾル 門間信樹 出演日

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(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
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