二期会ゴールデンコンサートVol.30「ドイツリートの継承」
中山悌一先生を想うメッセージ 【5】

《二期会ゴールデンコンサートVol.30中山悌一 一周忌特別演奏会「ドイツリートの継承」》(10月2日(土)津田ホール)公演に向け出演者から届いたメッセージ紹介。いよいよ最後に登場する二人の歌手です。
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 メゾソプラノ 伊原直子
 演奏予定曲
 ブラームス作曲 ナイチンゲールに寄せて/永遠の愛

音楽の真髄を追求なさった中山悌一先生
悌一先生のレッスンは朝9時。藝大大学院生の私は、毎回新しい曲を3曲ということで、前夜は緊張で殆ど眠れない状態でした。先生の見事な流暢な伴奏に支えられて歌う幸せ!あまり多くのことをおっしゃらず、時には素晴らしい声、生き生きとした表情で自ら歌って下さる一フレーズ。
“こんな具合かな”とおっしゃって、“この情景はどんなシチュエーションなのか?”という質問。
マーラー「亡き子を偲ぶ歌」を自分なりに情感豊かに歌った時、“センチメンタルは罪悪じゃ”とのひとこと。先生のおっしゃった本当の意味はドイツ留学中、身にしみて理解出来たことでした。
ドイツリートの名歌手でいらした悌一先生は、音楽の真髄を見抜き、芸術の高みを常に求めておられました。
今から41年前(1969年)中山悌一先生総監督、若杉弘氏の指揮(読響)で、ワーグナー『ラインの黄金』の上演となり(私のデビューともなりました)、日本のオペラ界に新たなエポックを切り拓かれました。先生は毎晩欠かさず練習場に来られ熱心にご指導下さいました。
あの時代、“二期会”は、中山先生を中心に、よりよき音楽を求め、まさに一丸となって燃えていました。
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 バリトン 多田羅迪夫
 演奏予定曲
 ブラームス作曲 エオリアンハープに寄せて/人の成り行きは

中山悌一先生の思い出 
渡欧の前、私が演奏の方向について迷っているとき「タタラ、人間はな、やらねばならないと思う事をやるのではなく、自分が本当にやりたいと思う事をやるのが幸せなんだよ。」とおっしゃって下さって、それが心の中にすとんと落ちてゆき、迷いが消えたのでした。先生のこの言葉がなければ、きっと今の私はなかったでしょう。
また、帰国した後のことですが「冬の旅」や「詩人の恋」の指導をして頂いていた頃、小澤征爾さん指揮『さまよえるオランダ人』に出演する際に「期限は満ちた」のオランダ人のアリアを持って伺った時のことです。このアリアは演奏時間が12分以上もかかる長大な難曲で、歌うのも大変ですが伴奏するのも専門のピアニストでさえ骨の折れる曲なのです。「これを弾くのは何年ぶりかなあ。少し待っていろよ」と先生はおっしゃって、楽譜をじっと目で追っていらっしゃいました。そうしてレッスン室に静寂の中にもページをめくる音だけが聞こえる時間が3分を過ぎようとした頃、私は伴奏者を同伴しなかった事を悔やんでいました。「よーし、では始めよう」とおっしゃって先生がピアノを弾き始められた時、オーケストラを彷彿とさせる、えもいわれぬ素晴らしい音色と音楽がそこにありました。アリアの最期まで一度のミスもない完璧なピアノ演奏でした。私は歌いながらその伴奏の音楽の素晴らしさに身体が震えるのを止めることが出来ませんでした。先生は歌手として超一流なだけではなく、ピアノの名手として、いや、音楽家として超一流な方でありました。
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二期会ゴールデンコンサート in 津田ホール Vol.30
〜中山悌一 一周忌特別演奏会「ドイツリートの継承」〜

公演日時:2010年10月2日(土) 16:00開演(15:30開場)
会場:津田ホール(JR千駄ヶ谷駅前/都営大江戸線国立競技場駅A4出口前)
料金:全自由席 4,000円
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