7月公演 ワーグナー『パルジファル』~グルネマンツ役 加藤宏隆インタビュー「グルネマンツはこのオペラの語り部。気持ちを注いで、正確に、歌いたい」

二期会創立70周年記念公演、ワーグナー『パルジファル』キャスト・インタビュー。今回はグルネマンツ役の加藤宏隆です。
2014年『ドン・カルロ』の宗教裁判長で二期会デビューを飾り、その後も『魔弾の射手』カスパール、『後宮からの逃走』オスミンなど重厚な役を担いきってきたバス・バリトンのホープ。そのシュアな歌唱力で、バッハ・コレギウム・ジャパンとの共演など宗教曲のソリストとしても高い評価を受け続けています。

グルネマンツは、この物語のいわば「語り部」。聖杯騎士の中でも長いキャリアを持ったリーダー的な存在です。それだけに歌唱部分も多くて長く、グルネマンツが長セリフを決めてくれなければ、ドラマ自体に影響が出てしまうほど。加藤にとっても、大きな挑戦となる舞台です。本番に向けて話を聞きました。

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2014年2月 東京二期会オペラ劇場『ドン・カルロ』より 宗教裁判長役(左/撮影:三枝近志)

――グルネマンツはどのような人物でしょうか。

加藤: 常識の枠を決して離れることのない、一般的な意味での非常に立派な人だと思います。常に自分が属するコミュニティの行く末を心配している、いわば模範的な常識人。しかしそれ故、少々頑固な所もあり、部外者には冷たい時もあり、人間的な面白みのある人かと言われるとそうでは無いような気がします。そういった意味では残念ながらグルネマンツは世界を変えるヒーロー、救世主のような存在にはならない人です。なぜならそのような人たちは歴史上、常に常識の枠の外にいるからです。ただグルネマンツのような人物は、どのコミュニティにおいても必要とされる人物だと思っています。コミュニティの変遷をとてもよく知る頼りになる人。誤解を恐れずに言うと、頼まれてもいないのに地域のために何かしてくれようとする世話役のような人物だと思います。

――グルネマンツの見どころ、聴きどころを教えてください。

加藤: この長大な作品、グルネマンツは2幕以外ほぼ舞台上に居るので、まずは私のスタミナが最後まで持つかどうかに注目してください(笑)!!
全体的には語り部的な性質上、言葉の発音をとくに重視したいと思っています。1幕でグルネマンツが長々とこれまでのモンサルヴァートの変遷を語るくだり。ここは一言でも欠けたら、オペラ全体を構成する内容理解を妨げる結果となってしまいます。気持ちを注いで正確に歌いたいと思っています。ワーグナーは、明瞭な歌詞の発音による明確な言語表現を歌手に求めていたと言われています。今回私はこれを重要なキーワードに定めてグルネマンツを作りあげたいと思っていますので、その辺り注目していただけると嬉しいです。

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2018年11月 東京二期会オペラ劇場『後宮からの逃走』より オスミン役(中央/撮影:三枝近志)

――加藤さんは、声種柄、実際の年齢より年配の役をされることが多いと思いますが、そのために「役作り」として難しさを感じられたことはありますか?またどのようなアプローチをしていますか。

加藤: 自分が経験したことがない人物を演じるにあたり、いかにそれらしく見せるのかは難しいです。私は留学中、演じるキャラクターが今まさに感じている感情や、その場の空気感、匂いや触感、痛みなど、とにかく全感覚をリアルにイメージし、それを体の動きに移していくという方法で演技を学びました。自分のこれまでの人生の経験からそれらの感覚を引っ張り出してくるのですが、自分が体験したことがないものに関しては、それに似た感覚を探してくるわけです。例えば、腰の曲がったおじいさんを演じるのであれば、自分が腰痛で苦しんだ時の感覚を思い出して演技に活かしたり、加齢により耳が遠くなった人を演じるのであれば、大音量の音楽が流れている中で会話したときの事を思い出しながら演技するとか、そんな感じで作っていきます。もちろんオペラですので、舞台での見え方や、声を飛ばすのに最適な角度なども意識しながら身体の姿勢を決めていきます。今でもそのような形で役作りをしています。
ただし、声に関しては、わざと年寄りっぽい声を出したりとか、そういうことは一切しません。正しいフォームで、自分のナチュラルな声を出すことが最優先です。声のカラーやトーンで表現を深めることはもちろんしますが、いわゆる“作り声“で歌っては絶対にダメだと思っています。それをやってしまうと、音程も悪くなるし、声もとたんに飛ばなくなるし、声の寿命を縮めることにもつながります。自分の声が役柄よりも若く聞こえてしまっても、それは素直に諦めて役柄と自分の実年齢が合ってくるのを気長に待つべきだと思っています。

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2018年7月 東京二期会オペラ劇場『魔弾の射手』より カスパール役(撮影:三枝近志)

――最後に、本公演に向けまして、ファンの皆様にメッセージをお願いいたします。

加藤: 今回のパルジファルが私にとって初のワーグナーとなります。ワーグナー経験豊富な皆様に囲まれての稽古はとても楽しみです。ぜひご来場いただけましたら幸いです。

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▼『パルジファル』公演情報ページはこちら
2022年7月公演 R.ワーグナー『パルジファル』 - 東京二期会オペラ劇場
2022年7月13日(水)17:00*、14日(木)14:00、16日(土)14:00*、17日(日)14:00 東京文化会館 大ホール
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ/演出:宮本亞門/管弦楽:読売日本交響楽団
*…グルネマンツ 加藤宏隆 出演日

●公演のご予約・お問合せは《発売中》
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(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
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