【新シーズン開幕!】2022年9月プッチーニ『蝶々夫人』~ヤマドリ役 畠山 茂インタビュー「蝶々さんを救う方法はこれしかない、と思って求婚します」

東京二期会2022-2023シーズン開幕公演プッチーニ『蝶々夫人』キャスト・インタビュー。第4回は、杉浦隆大に続いて、ヤマドリ役のバスバリトン畠山 茂をご紹介します。
「バスバリトン」と紹介してしまいましたが、本人曰く、正確には「バッソ・ブッフォ」。おどけた、道化的なバスを主要なレパートリーとする声種(典型的なのは『ドン・パスクワーレ』の題名役など)ですが、近年は、その作品への深い洞察力をもって『サロメ』『ルル』『金閣寺』などシリアスなドラマでもその個性を発揮しています。
これまで幾度も演じてきたヤマドリで、今回はどのようなアプローチをするのでしょうか。 話を聞きました。

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2011年2月 東京二期会オペラ劇場『サロメ』より ユダヤ人5役(写真左)

――ヤマドリは、どのような役、人物でしょうか。

畠山: 地元の金持ちであり、身分もあり、蝶々さんを気に入っている。蝶々さんさえ「再婚」を承諾するならば彼女を幸せにできると思っているが、全く受け容れられない──という人ですよね。
世の中には色々な演出があり、彼を成金の嫌な奴のように描いたり、見るからに振られて当然なコミック役のように位置づけたりするものもあるかと思いますが、私が栗山昌良演出でヤマドリを演じるときに気をつけているのは、余り嫌な奴とか振られて当然な人物にしないこと、です。あんなのと結婚するくらいなら当然ピンカートンを待つよね、という印象を大きく与えてしまうと、蝶々さんの愛や覚悟を卑小化させて、逃げのニュアンスを加えてしまうおそれがあるからです。

――周囲の人が「悪役」ではなく当時の価値観から見て「真っ当」であればあるほど、蝶々さんの純粋さが際立つのですね!
それでは、ヤマドリ役の登場シーンについて見せどころ、聴かせどころを教えてください。


畠山: あのシーンでは、ヤマドリに限らず、どの役も大きな「歌」を歌っていません。ですので、とても演劇的に対話、または対話の断絶が進みます。
先程のご質問への答とも関わってきますが、ヤマドリは何も助平心だけからではなく、こうすれば蝶々さんを救える、救う方法はこれくらいしかない、とも思って求婚していると思います。当時の認識としても、蝶々さんがヤマドリ家に入って安楽に暮らす、というのは世間では普通に取り得る方法だったでしょう。
お客様が終演後にあれこれ思い返す中に、あそこで受け容れるのも普通の人ならありだった、思えばあれが、破滅を免れる最後の機会だったかも──というイメージが少しでも残れば、冥利です。

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2014年4月 東京二期会オペラ劇場『蝶々夫人』より ヤマドリ役(写真左)

――少し調べたら、ヤマドリは「公爵」なので、明治の華族制でもほんとうに少数の最高位なのですね!当然、皇族ともつながる可能性もあって、当時この話を振ってしまう人は、蝶々さん以外ありえなかったのでは……と思えます。
ヤマドリのシーン以外で、好きなところがありましたら、ひとつ教えてください。


畠山: ピンカートンの船が港に入ってきたことを告げる、大砲の音。
舞台袖にいても客席にいても画面を観ていても録音を聴いていても、あそこで必ずのように私の胸に何かが込み上げます。歌でも音楽でもない、ただ一つの「音」ですが、劇中で最も劇的だと感じます。

――プッチーニの音楽がメロディックなだけに、そこはとても衝撃を受けますね。
さて、今回は、キャストのみなさんに、蝶々さんとおなじ15~18歳のときことを聞いています。畠山さんはどのような高校時代を過ごされたでしょうか。


畠山: 高校生のときは、高松第一高校の音楽部で合唱に励んでいました。毎年のように全国大会に出ていました。夏休みもほぼ毎日、練習していたと思います。 そのついでのように音楽科に進学していて、そちらも忙しかったですね。何しろ、中学校までは特別な音楽教育は受けていなかったので、大変でした。ピアノやらソルフェージュやら……。

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2022年2月 東京二期会オペラ劇場『フィガロの結婚』より バルトロ役(写真右端)

――高松第一高校から二期会会員になった歌手がたくさんいますね。伝統的に、音楽の礎作りと、何より続けて学びたいという喜び作りがすごくしっかりされているだろうと思っています。
最後に、本番に向けての意気込み、メッセージをお願いいたします。


畠山: この栗山プロダクションでのヤマドリ役は、今回で何度目でしょうか。もう二十年ほど関わらせていただいていますが、最初は若いなりにもがいていたものが、ヤマドリを実感できる実年齢になってきたかもしれません。今だから見えるもの、感じられるものを色に出せれば、と思っています。

*     *     *


▼『蝶々夫人』公演情報ページはこちら
2022年9月公演 G.プッチーニ『蝶々夫人』 - 東京二期会オペラ劇場
2022年9月8日(木)18:30*、9日(金)14:00、10日(土)14:00*、11日(日)14:00 新国立劇場オペラパレス
指揮:アンドレア・バッティストーニ/演出:栗山昌良/管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:二期会合唱団、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部
*…ヤマドリ 畠山 茂 出演日

主催:公益財団法人東京二期会
共催:公益財団法人新国立劇場運営財団、公益財団法人日本オペラ振興会

●公演のご予約・お問合せは《発売中》
二期会チケットセンター 03-3796-1831
(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
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