2008年05月27日のエントリー

「オペラ劇場仕様の話し(1)」 オペラの制作現場からーその12

 ここ十数年の間に続々と建設された本格的なオペラ劇場仕様のホールは、特に多面舞台であること(舞台の上手、下手、奥に舞台と同じサイズのスペースが設けられているのが4面舞台)と、ホール自体の残響時間がオペラ上演に最適な設計となっていることが挙げられます。日本の多面舞台ホールは世界でも最先端の設備を持っているとさえ言われています。
 誤解をしていただきたくないのは、多目的に使われる各地のホールにも、設計段階から様々な工夫がなされ、素晴らしいオペラ上演空間のところが沢山あることです。会場の仕様を理由にオペラをやらないことはまずあり得ませんし、実際私たちの団体も永年全国各地の「本格的なオペラ劇場仕様ではない」会場で公演をしてきましたし、今後も変わることはありません。
 では、多面舞台と音響の意味するところは何なのでしょうか。今回と次回の2度に分けてお話しすることにしましょう。まずは多面舞台のホールからですが、平面図を見ると客席部よりむしろ舞台の方が大きく感じるほどの床面積を持っていて、各幕の舞台装置を右や左や奥から次々に出して来るには至極便利です。しかし、本来の意味合いは連日公演を続けるオペラ劇場にとっての作業の利便性です、つまり公演が行われていない時間帯には次の演目の稽古をやるための舞台装置が組み立てられ、終わり次第その夜の公演のために別の装置を仕込むといった。ですから幕毎に舞台装置を入れ替えるオペラでも、段取り次第で多面舞台を持たないホールで十分に上演が可能だというわけです。
 ちなみに、ヨーロッパの有名歌劇場でも完全な4面舞台がない例があります。年間に300回の公演を行っている二つの歌劇場のうち、ウィーン国立歌劇場では下手側の奥行きが舞台の半分くらいしかなく、バイエルン州立歌劇場では片側の袖は通路だけ、平面図を見ると田の字です。
 日本が世界に誇るホールをできるだけ多く活用するためには、単独では予算の制約がある複数のホールや制作団体が協力して、制作自体に多額に費用がかかるオペラを1回でも多く公演することも大切です。その意味でこの2月と3月、びわ湖ホール神奈川県民ホールの共同制作になるオペラ『ばらの騎士』の成功は、二期会が制作団体として協力(共催)させていただいたことも含めて、今後に大きな示唆を与える画期的なプロジェクトだったと思います。(常務理事 中山欽吾)

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