2022年05月17日のエントリー

7月公演 ワーグナー『パルジファル』~アムフォルタス役 清水勇磨インタビュー「音楽もどれだけ本気で作品を好きになり、様々な視点から見つめる気持ちを保ち続けられるかという事だと思います」

二期会創立70周年記念公演ワーグナー『パルジファル』キャスト・インタビュー。今回はアムフォルタス役バリトン清水勇磨の登場です。
『ばらの騎士』ファーニナルが二期会最初の舞台。その後は、二期会だけでも『タンホイザー』ヴォルフラム、『ファルスタッフ』フォード、そして先月『エドガール』フランクと大役が続いています。
そして、今回のアムフォルタス。聖杯と聖槍を守護するモンサルヴァートの王です。オペラ『パルジファル』冒頭、王は傷ついた姿で現れます。
妖女クンドリの誘惑、つまりハニートラップにかかり、大事な聖槍を魔王クリングゾルに奪われてしまったばかりか、その槍で身体を突かれ、負傷したのでした。最も恥ずべき形で王としての務めを果たせず、身体もプライドも傷ついたアムフォルタス。それでも王の威厳を保ち、苦痛と悔恨に耐えなければなりませんでした。これまでになくスケールが大きい上に、かように内面的に繊細な描写が要求される難役です。
公演に向けて、話を聞きました。

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2016年7月 グラインドボーン音楽祭との提携公演『ばらの騎士』より ファーニナル役(中央)

――アムフォルタスとは、どんな人物、役柄でしょうか。

清水勇磨: 規律を守り上下関係を非常に重んじている事が見てとれます。ガーヴァンを呼ぶ場面をみても(Ohn’ Urlaub)許しを得ないで出かけていった事に憤っている事からも分かるように、しっかりと騎士達をまとめている事が分かります。
また、アムフォルタスを貫いているのは“傷”の痛みが彼の中に常にあるという事です。そういう事が頭の中、また身体的にも極限的な状態にあるので(Erbalmen!)という劇的な神への懇願へと繋がるのです。
また、3幕のティトゥレルの遺骨を目にして(Oh! Der du jetzt in göttlichem Glanz)「おお今神の栄光に包まれ」という箇所の中に、明らかに彼の感情に変化が生じます。それがもはや聖杯王としての役目を果たせない位に取り乱すきっかけになると思っていますが、私には役柄全体としては人間的な優しさに満ちている役だと思います。

――確かに、アムフォルタスには、王としての優しさ、懐の深さが感じられますね。『パルジファル』の真の主役とも言われるアムフォルタスですが、この役の聴かせどころ、見せどころを教えてください。

清水勇磨: 1幕のティトゥレルの声から要は「お前は務めをしていない」と言われるわけですが、アムフォルタスの苦しみの揺れ動き、重責に耐えられず、父親に責務を果たして欲しいという言葉から始まります。アムフォルタスの死ぬに死ねないこの状況が音楽的にも瞬間、瞬間の感情の変化が非常に細かく描かれており、一つの要かと思います。
3幕の父親の遺骨を目の前にした時の状況も重要な場面かと思います。

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2021年2月 東京二期会オペラ劇場『タンホイザー』より ヴォルフラム役

――イタリアで学んだ清水さんにとって、ドイツオペラでの活躍については自身でどのように考えているのでしょうか。役や楽曲に対するアプローチで何か違いはありますか。

清水勇磨: まず、西洋音楽における我々アジア人は完全に外国人です。ヨーロッパ各国は隣接していますし、アメリカだってアルファベットを使うんですから、言語体系として全く別な訳です。当然、核になる言語やレパートリーはあるわけですが、ボローニャ歌劇場の研修所の時ですら、イタリア語、フランス語、ドイツ語のディクションは常にやっていましたし、外国人の方が他国の作品もやらなくてはという必死さがある様に思います。私は、イタリアに行ってからイタリア語以外の音楽に触れる事によって、言葉さばきにしても音楽的な構築にしても、差や共通点がはっきりして、よりイタリア音楽に対する理解も深まったと思っています。また、初めて取り組んだドイツオペラは二期会デビューの『ばらの騎士』でした。音楽を聴いた時に衝撃を覚えた事を記憶しています。ファーニナルという大きい役をさせて頂いた事の経験で、その後のドイツオペラ作品へも繋がりましたから、出会いに感謝しています。研修所時代にクリス・メリット氏にも「お前はドイツオペラも絶対やった方が良い」と言われましたし、私は両輪で歌っている方が互いの音楽や言葉に新鮮味や尊敬を抱き続ける事が出来ると思うので、続けて行きたいです。結局、音楽もどれだけ本気で作品を好きになり、様々な視点から見つめる気持ちを保ち続けられるかという事だと思いますから。なぜか恋愛の話の様に聞こえますが、ある種、恋人の事を知りたいという事と似ている様な気がします。(私だけですかね。汗)

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2021年7月 東京二期会オペラ劇場『ファルスタッフ』より フォード役

――そして、9月にはソロ・リサイタルも控えています。リサイタルのプログラムについて、少し教えてください。リサイタルに向けての意気込みもお願いいたします。

清水勇磨: 9月のリサイタルは『パルジファル』と同じ東京文化会館で開催します。演奏曲目は当然全曲決定している訳ですが、発表までもう少し時間を頂く事になっています… 少しだけ申し上げさせて頂くと、後半はオペラアリアが並んでいます。『道化師』や『妖精ヴィッリ』等もプログラムされています。前述で触れて頂いた、二期会オペラでも歌唱した『ファルスタッフ』や『エドガール』も演奏予定にしています。『椿姫』も入っています。ヴェルディ、ヴェリズモをレパートリーとしている歌手の中心的な曲目はプログラムされています。
少し専門的に申し上げますと、舞台発声、発語というのは明確にこれをしなければならないという方法論がある訳です。話し言葉とは違いますので、例えば、高音、低音は技術的にこうしないと客席に明確に聞こえないという具合です。それをイタリアで毎日叩き込まれたからこそ、大体基本的な事や、困った時もある程度対処出来る訳です。何度も演奏したアリアの数々です。前半で申し上げるとリスト作曲「ペトラルカによる3つのソネット」を演奏する予定にしています。ピアノソロの曲がありますが、今回演奏するのは歌が一緒になったものです。イタリア人が書いた音楽ではありませんが、音楽的な美しさ、言葉への配慮としても非常に学ぶべき事が多い作品です。是非足を運んで頂き、お聴き頂けましたら幸いでございます。

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2022年4月 東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ『エドガール』より フランク役(右)

――とても贅沢な「バリトン清水勇磨のフルコース」! 楽しみにされている方もたくさんいらっしゃると思います。最後に、『パルジファル』の本公演に向けて、ファンの皆様にメッセージをお願いします。

清水勇磨: 7月に東京文化会館でパルジファルが行われます。宮本亞門さんの演出も楽しみですし、セバスティアン・ヴァイグレさんとの音楽作りもどうなるかとわくわくしています。私にとっても新たな役柄への挑戦ですが、是非お出掛け頂けましたら幸いです。

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▼『パルジファル』公演情報ページはこちら
2022年7月公演 R.ワーグナー『パルジファル』 - 東京二期会オペラ劇場
2022年7月13日(水)17:00、14日(木)14:00*、16日(土)14:00、17日(日)14:00* 東京文化会館 大ホール
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ/演出:宮本亞門/管弦楽:読売日本交響楽団
*…アムフォルタス 清水勇磨 出演日

▼9月18日開催!「清水勇磨バリトンリサイタル」の公演情報ページはこちら
五島記念文化賞 オペラ新人賞研修帰国記念「清水勇磨 バリトンリサイタル」 - 株式会社 二期会21
2022年9月18日(日)14:00 東京文化会館 小ホール

●両公演のご予約・お問合せは《発売中》
二期会チケットセンター 03-3796-1831
(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
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