2008年04月16日のエントリー

「現場感覚」 オペラの制作現場からーその9

 よいオペラを作るには?という問いについて、〈よい〉を〈高品質の上演レベル〉と置き換えてみます。個人芸術家の至芸とは異なり、オペラは大勢の芸術家や技術者達の共同作業ですから、仕事の仕組みはまさに建設工事のプロジェクトとおなじです。
 下手な例えですが、素晴らしい設計でも手抜きをすれば欠陥だらけの建物しか立たないという点ではオペラも同じです。品質を高めるには、現場で発生するさまざまな問題を一つの方向性を持って解決し、まとめ上げていく作業が不可欠ですから、調整役つまり制作スタッフは「個と全体」の両方の視点でチームのバランスを見ていることが大切で、少なくとも毎日の現場を熟知していなければできないことです。
 「三現主義」という聞き慣れない言葉があります。〈現場〉〈現状〉〈現実〉をいうのですが、問題が起きたときに現場に行って現状を調べ、現実を観て方策を決めて実行するという、生産現場での品質作り込みの鉄則ですが、実は世の中の全ての行為に共通する真理です。他ならぬ筆者もかつて産業人時代に実践してきたので、オペラの世界に身を投じたとき、オペラの世界でも現場感覚が大切だということが分かったのは我が意を得る経験でした。
 上演レベルといえば、音楽は勿論のこと舞台装置、照明、衣裳などの美術的要素の他に、最近のようにドラマの表現を重視する演出が主流になると、舞台上での演劇的要素の完成度も重要度を増しています。その全体を最終的な舞台でどう表現するかは、まさに稽古の現場でなければ作り込みはできないわけです。
 稽古も終盤になると、歌う人とそれを受ける人の緊密な人間関係を描き出す感情の交錯や会話、客席からもはっきりと理解できるボディランゲージによる心理表現などが、ドラマの中にぐいぐいと引き込まれる大きな要素になっていることが実感できます。このドラマを指揮者に率いられたオーケストラと力の揃った歌手達による音楽が一体となって、舞台は一層感動的になるのです。
 観客のカーテンコールやアンケートに上演の成果がはっきりと反映されると、初めて裏で舞台を支えるスタッフ達は秘かな喜びに浸ることができます。オペラ作りの醍醐味というわけです。(常務理事 中山欽吾)

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