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「国際共同制作(1)」    オペラの制作現場からーその20

 しばらく〈オペラの制作現場から〉をお休みしていましたが、少し方向を変えたテーマで再開することにしました。よろしくお願いします。
 我が国のオペラは全国で年間千回以上も上演されているにもかかわらず、シーズン制をとって継続的に公演を続けているのは東京の新国立劇場だけという状況です。各都市の中央にオペラ劇場があるオペラ発祥の地欧州のそれとはかなり様相を異にしています。その日本流のやり方を現実としてとらえて、よりよい姿に磨き上げるという発想を持ったのは、オペラとは全く関係のない世界から入ってきて、民間のオペラ制作団体の窮状を実感したからに他なりません。永年の慣習の中で確立していた専門家集団との協業といういわばプロジェクト的な方式は確立していました。しかし財政的なリスクの軽減、オペラの完成度の向上など、団体として目指す方向性ははっきりしているのに、その手段についてはそこ止まりだったのです。これから何度かにわたってお話しするのはそんな状況からのブレークスルーを目指した活動に関する悪戦苦闘の軌跡です。以後何度かにわたって、その軌跡をたどってみましょう。
 二期会では50周年記念公演シリーズを制作した頃から、海外のオペラ劇場と共同制作を進めてきました。その大きな動機は、文化庁が日本のオペラをより大きな視野でレベルアップする方策を模索する中で実現した助成システムがスターとすることが発表されたからでした。2002年の『ニュルンベルクのマイスタージンガー』は二期会50周年の目玉演目でしたが、単独で取り組むには余りにも規模が大きくリスクがありました。そこで、この文化庁の枠組みによる海外との共同制作に着目し、欧州の数劇場と接触を試みました。最終的には、過度にドイツ的ではなく衣裳・装置もユニバーサルな演出のベルギー王立歌劇場(モネ劇場)に決まり、モネ劇場スタッフまで巻き込んだ、同劇場にとっても大規模な再現上演となりました。当時モネ劇場の総裁はオルガニストとしても著名な芸術家であるフォックロール氏で、少し前に文化庁の招聘で来日されたおりに二期会にも来訪されて、お互いに将来の協力について前向きな会話を持っていたことも、この共同制作決定に至る重要なステップとなっており、全面的なモネ劇場の協力を取り付けることができたのです。
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  二期会創立50周年記念公演『ニュルンベルクのマイスタージンガー』フィナーレ(2002年)
 休憩時間を入れて6時間に及ぶ巨大なこのオペラを日本人のみの出演で実現したことによって得られた果実は計り知れないものがあり、共同制作の意義がはっきりと認識できたのです。東京文化会館の本公演の前に、横須賀芸術劇場のご好意で、同劇場の舞台を使って十分の完成度になるまで準備できたこと、特に総勢150名におよぶ出演者達の乱闘騒ぎのシーンでは、モネ劇場の演出部から派遣されたスタッフによる周到な稽古によってダイナミックな動きが実現し、大舞台の成功に結びつけることができたのでした。(常務理事 中山欽吾)

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