2011年12月13日のエントリー

扉の向こうのドン・ジョヴァンニ、時を超えて、交感する

東京二期会オペラ劇場2011年11月公演『ドン・ジョヴァンニ』は、ベルリン、シュトゥットガルト、ウィーンでキャリアを積み、ドレスデン歌劇場、ウィーン国立歌劇場等、一流の歌劇場で活躍を続ける演出家カロリーネ・グルーバーを迎え、11月23日にライン・ドイツオペラ(デュッセルドルフ/デュイスブルク)との国際共同制作のプレミエ公演が東京・日比谷の日生劇場で幕を開けました。
1カ月以上に及ぶ濃密な稽古の成果を発揮し、観客の心を揺さぶるメッセージ性の強い舞台となりました。
話題の多かった今回の公演を、舞台写真と共に、振り返ります。
★11月23・26出演組(撮影:鍔山英次)
☆11月24・27日出演組(撮影:三枝近志)



ドン・ジョヴァンニ(宮本益光)の屋敷に迷い込んだ、マゼット(近藤 圭)とツェルリーナ(盛田麻央)。皆、生きている時代の異なる人々。後ろでは、ドン・ジョヴァンニが次々と女性と出会っては消えていく。レポレッロは大塚博章。


目に飛び込んでくるのは、アーノルド・ベックリンの「ユリウスとカリプソ」をモチーフにした大きな絵。
ドン・ジョヴァンニとは誰なのか?


奇妙な晩餐会。
テーブルにつくのは左からマゼット(北川辰彦)、レポレッロ(久保和範)、ツェルリーナ(嘉目真木子)。


ドンナ・アンナ(文屋小百合)の父、騎士長(斉木健詞)はドン・ジョヴァンニに殺されてしまいます。婚約者のドン・オッターヴィオ(今尾 滋)が慰めますが、聞き入れる風ではありません。


sentire odor di femmina...
女の匂いがする。ドン・ジョヴァンニ(黒田 博=写真右)は鼻が効くのです。
現れるのは、ドンナ・エルヴィーラ(佐々木典子=写真左)。


レポレッロ(久保和範=中央)のカタログの歌。
Madamina, il catalogo è questo
7つの扉から出入りする登場人物。異なる時をつなぐ扉です。
1887年、1813年、1789年、1848年、…と年号が書かれていました。


Il labbro è mentitor, fallace il ciglio!
唇は嘘つきで、目は偽り。
ドンナ・エルヴィーラ(小林由佳)は、ドン・ジョヴァンニを忘れることはできないのです。
愛の深さと気丈さと執着心は紙一重。魅力的なドンナ・エルヴィーラ像を見せてくれました。


Poverina, poverina! 「可哀そうに!」
このいい男ぶり。


父を殺したのはドン・ジョヴァンニと知りつつ、魅かれているドンナ・アンナ(増田のり子=左)にCosa è stato? 「どうしました?」と暢気に聞くドン・オッターヴィオ(望月哲也=左から2番目)。
2人は同じものを見ても、まるで別の景色、なのですね。
しかし、ドン・オッターヴィオをここまで豊かに聴かせてくれる歌手もそう多くはいないです。
ドンナ・アンナには見えなかったとしても。


ドンナ・アンナが歌う強烈なアリア。
Era già alquanto avanzata la notte, 「私が夜一人でいるときに」
紗幕の後ろで、ドンナ・アンナとドン・ジョヴァンニの逢瀬が映ります。
真実はどちら? まるで、羅生門のような。


ドン・ジョヴァンニは、ツェルリーナを誘惑します。
こちらもマゼットという新婚の夫がいますが、その魅力には抗しきれず。




マゼットがツェルリーナの存在を無いもののようにして踊る中、Batti, batti, 「私をぶっていいから仲直りしましょう」というツェルリーナのアリア。
この複雑な演技をしつつ、アリアを歌うという、離れ技。


リベルタゲーム。Viva la liberta! 「自由万歳!」
びわ湖ホール公演では客席から参加してくださった方がいらっしゃったとか。


登場人物それぞれにカリプソの絵が降りてきます。
人は待ち望み、憧れずにはいられない。


騎士長の亡霊は、今回は“正しき人”として現れます。
長谷川 顯の堂々とした終幕の存在感。


地獄に落ちたドン・ジョヴァンニですが、また出てきて笑っています。
すると、ドンナ・アンナも、ドンナ・エルヴィーラも、ツェルリーナも服を脱ぎ捨てて、
花嫁のようなベールをまとって嬉しそうに踊る、というのは一体、何を表しているのでしょうか。


ハッピーエンドとも取れますが、解けない謎を残したとも。
皆様の心に、ドン・ジョヴァンニと、彼をめぐる人々に思いが残れば、幸せに思います。

マエストロ沼尻竜典と、共に奏でたトウキョウ・モーツァルトプレーヤーズに支えられた公演でした。
ご来場ありがとうございました。
(写真をクリックすると拡大してご覧いただけます)

そして、日生劇場で4回の公演の後、12月4日に びわ湖ホールへ。
びわ湖ホールの公演当日は、良く晴れて、京都に向かう新幹線の窓から、虹を見ることができました。
びわ湖畔の山々も美しい紅葉に染まっていて、初冬ながら、おだやかな日曜日。
東京公演の様子も風の便りに伝わっていて、「何や観に行こか」という空気が柔らかい。
以下、びわ湖雑記。

前を歩いていた若いカップルの会話。
「ドン・ジョヴァンニの話は知っとるか?」
「知っとぅよ。女たらしが地獄に落ちる話やろ?」
この明快さ。一本!
京都市営地下鉄「蹴上」から「浜大津」に向かう途中。
「あぁ、しんど」「今日は日曜や」「今からアベック出てくる時間や」
京の女子高生恐るべし。

帆かけ舟

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